ダークパターンと、その反対側の設計
この記事の要点 ダークパターンは、使い手の不注意や心理の癖を利用して意図しない行動へ誘導する。 その反対は「明るい設計」ではなく、選択を使い手の手元に残す設計で…
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この記事の要点
かつて、画面の下まで読むと「次へ」というボタンがあった。押せば次の頁が来る。押さなければ、そこで終わる。この小さな区切りが、読む行為に「終わり」を与えていた。無限スクロールは、その区切りを取り払った。指を上に滑らせるだけで、内容は途切れなく続く。終わりが来ないということは、自分で終わりを決めなければならない、ということでもある。
無限スクロールが広まったのは、読み込みの待ち時間を減らし、操作を滑らかにするためだった。実際、頁をめくる手間は消え、体験は連続的になった。けれども同時に、消えたものがある。「ここまで読んだ」という区切りの感覚だ。区切りがなければ、読み終わったという実感も生まれにくい。
区切りには、見過ごされがちな働きがある。それは、行動に区切りを与えることで、満足の機会を作ることだ。一頁を読み終えるたびに、小さな達成感がある。次へ進むかどうかを選ぶ瞬間に、立ち止まる余地がある。無限スクロールは、この立ち止まりの瞬間を設計から取り除いた。ただし、これは偶然ではない。立ち止まる瞬間が減れば、利用は途切れにくくなる。
ここで効いているのは、いつ報酬が来るか分からない状態が行動を引き出しやすい、という性質だ。ニール・イヤールは『Hooked』(2014) で、予測できない報酬が継続を強める仕組みを論じている。スクロールの先に何があるか分からないからこそ、指は止まらない。連続記録が損失回避を使うのに対し、無限スクロールは予測不能性を使う。どちらも、行動を続けさせる方向に働く。
一方で、区切りを設計に戻そうとする動きもある。一定時間で休止を促す表示、一日に読める量の上限、「ここまで追いつきました」という終端の提示。これらは、消えた区切りを人工的に作り直す試みだ。もっとも、こうした設計は送り手にとって利用時間を減らす方向に働くため、広く採用されるとは限らない。区切りを取り戻すことと、長く使ってもらうことは、しばしば対立する。
裏を返せば、区切りの有無は、使い手の都合と送り手の都合が最も鋭くぶつかる場所だ。使い手は終わりを欲しがり、送り手は終わりを遅らせたい。無限スクロールは、この綱引きで送り手の側に大きく傾いた設計だと言える。
設計が区切りを与えてくれないなら、使い手が自分で引くしかない。時間を決める、件数を決める、読む前に終わりの目印を置く。どれも地味だが、消えた区切りを手元で作り直す方法だ。スクリーンタイムという指標も、こうした自前の区切りを支える道具のひとつとして読める。
無限スクロールが変えたのは、読む速さでも量でもなく、「終わり」をどこに置くかという主導権だった。その主導権を設計に預けたままにするか、自分の手に戻すか。連続して流れてくる画面の前で、私たちはその選択を、毎日静かに迫られている。
参考にした資料
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